生前贈与が使いやすく
相続時精算課税制度と控除枠110万円
2024年から贈与に関する制度が変わります。
生前贈与しても累計額が一定額に達するまで贈与税がかからない相続時精算課税に110万円の基礎控除枠が新設され、年間の贈与が110万円以内に収まれば都度の税務申告も不要です。
つまり、生前贈与が使いやすくなります。
贈与時に税金が発生しない2種類の制度
暦年贈与と相続時精算課税制度
贈られる側1人につき毎年110万円まで課税されない暦年贈与と、贈る側1人あたりの贈与が累計2500万円の特別控除枠に達するまで課税されない相続時精算課税制度があります。
いずれも「非課税」の言葉が一人歩きしがちだが、将来的に相続税は発生する場合があります。
税制上、生前贈与の一部は相続財産に含めて計算され、相続財産の基礎控除額「3000万円+600万円×法定相続人の数」を超えた分には相続税がかかるからです。
ただ、特に相続税精算課税制度の場合、贈与時点では、税負担の繰り延べとなり、まとまった金額の支援が受けやすいです。
暦年贈与は、贈る側と贈られる側の関係性に制限はなく特段の手続きも不要ですが、相続時精算課税制度は原則60歳以上の祖父母や父母から18歳以上の子供や孫への贈与に限られ、相続時精算課税の届出も必要になります。
いったん後者の相続時精算課税制度を選ぶと前者の暦年贈与に切り替えることはできません。同じ人からの贈与に両者の併用はできません。
暦年贈与では従来、相続税の課税対象に加算されるのは相続発生前3年の贈与でしたが、これが7年まで延長されました。対象期間の延長は相続開始日に応じて段階的で、相続発生前7年までの贈与が課税対象となるのは、平成31年1月1日以降に発生した場合です。
相続財産に加算される生前贈与の対象が従来より広がるため、制度変更前より相続税が増える可能性があります。
相続時精算課税制度も、制度を選んだ年分以降の贈与が相続財産に加算されますが、今回の制度改正で毎年の基礎控除枠110万円の分だけ贈与税も相続税も発生しない非課税枠が設けられました。
制度を選択したあとの贈与は金額にかかわらず、贈与税の申告をする必要がありましたが、今後は暦年贈与同様に、年110万円まで申告せずに済みます。
教育や結婚・子育て資金の非課税制度
生前贈与では、教育や結婚・子育ての資金を対象とした非課税制度もありますが、金融機関に専用口座の開設や支出ごとの領収書の提出が求められたりします。
相続時精算課税制度であれば、使途も自由で専用口座も不要です。基礎控除枠の新設で使い勝手はさらに改善されました。
財産の種類
財産の種類は確認しておく必要があります。
相続税では生前贈与分の財産は贈与時の時価で計算します。相続までに値上がりすれば実質的に節税になりますが、値下がりすれば逆効果になります。値動きの激しい財産は避けたほうが無難でしょう。
一方、収益性の高い財産は節税効果が相対的に大きくなります。安定した家賃収入が見込める賃貸アパートや高配当の有価証券が代表的です。家賃や配当は相続時の精算対象外となるからです。
同じ不動産でも実家を相続する場合は話が変わってきます。相続税では一定の要件を満たせば評価額を80%減額できる小規模宅地の評価減の特例がありますが、生前贈与していた場合は特例の対象外です。実家の不動産が最も高価な財産であれば相続税専門の税理士などの専門家に相談したほうが確実です。
暦年贈与と相続時精算課税制度の有利選択
暦年贈与と相続時精算課税制度のどちらを選択??
暦年贈与と相続時精算課税制度のどちらを選択すればよいでしょうか??
節税効果の大小だけを基準に判断するのは難しいです。相続が発生する時期に大きく影響されるからです。理論上は、相続税の加算対象になる直前まで暦年で贈与を繰り返した後、相続時精算課税制度に切り替えるのが節税効果は最も大きくなります。
ただ、相続の時期は誰にもわかりません。そこで大切なのは当事者同士の情報の共有です。ある人の生前贈与を他の人が知らないまま相続が発生するとトラブルになりやすいです。
心情的なしこりだけでなく、生前贈与分の加算により税制上の相続財産が膨らんで基礎控除額を超えてしまうと、思わぬ税負担が発生してしまうからです。
生前贈与に関わる税制改正で、より長期的な資産承継対策の必要性が高まりました。将来の予想を含め、親族の意見を十分に聞き取る重要性は変わりないといえるでしょう。