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借地権価額の評価算定
前提条件
1.甲は、昭和61年に乙(甲の父)所有の土地Xに借地権を設定し、その土地の上に5階建てのビルYを所有しています。
2.甲は、借地権の設定にあたり、乙の相当の地代(A土地の昭和61年分の相続税評価額の6%相当の年額地代)を支払うこととし、権利金は支払っていません。
3.借地権の設定後において地価が下落したことから、甲と乙は地代を改訂し、平成12年以後の地代を大幅に引き下げました。
4.甲と乙は、Yビルを撤去したうえ、X土地を丙社(甲と乙との特別な関係はない)に売却することを計画していますが、不動産仲介業者の話しによれば、X土地の売却価額は相続税評価額の1割増し程度ではないか?ということです。
5.X土地の売却価額を、どのような方法で借地権の価額(甲の取り分)と底地の価額(乙の取り分)に配分すれば税務上問題が生じないか、を検討しています。
質問
1.相続税・贈与税における借地権価額の評価算式(資産税通達)と法人税における借地権価額の評価算式(法人税基本通達13-1-15)が異なっていることから、いずれの評価算式に従って借地権価額を評価すべきか迷っています。
2.X土地の売却価額の総額の借地権と底地への配分は、売却先が法人(丙社)なので、法人税通達によるべきなのでしょうか?
それとも、甲・乙間の贈与税の問題を回避するためには、資産税通達によるべきなのでしょうか?資産税通達による場合、同通達における「通常地代」は、どのように算定すればよいのでしょうか?
3.借地権価額の計算の基礎となる土地の価額について、資産税通達においては相続税評価額が採用され、法人税通達においては通常の取引価額(土地の更地価額)が採用されることは理解できるのですが、借地権価額の算定要素として、法人税通達においては「相当地代」と「実際地代」のみが採用されているのに対し、資産税通達においては「相当地代」と「実際地代」のほかに、「借地権割合」と「通常地代」が採用されているのは、どのような理由からでしょうか?
回答
《T問題の所在》
土地の所有者とその土地に借地権を有する者とが、その土地(底地)と借地権を一括して譲渡した場合、土地所有者と借地権者の間及びこれらの者と買主との間に特別な関係がなく、その取引が純粋なコマーシャルベースに基づくものであると認められる場合には、譲渡価額の総額の土地と借地権への配分が税務上問題となることはありません。
しかし、土地所有者と借地権者の間又はこれらの者と買主との間に特別な関係がある場合には、譲渡価額の総額の土地(底地)と借地権への配分が合理的に行われていないときは、次のような問題が生じます。
@土地所有者と借地権者の間における「みなし贈与課税」
A譲渡価額の総額が適正な金額であっても、土地(底地)の譲渡価額又は借地権のいずれかの譲渡価額がこれらの時価(通常の取引価額)の50%未満となる場合における低額譲渡として「みなし譲渡課税」
この事例は、土地所有者乙は借地権者甲の父であり、両者の間には密接な特別の関係がありますから、X土地の譲渡価額の総額の乙の土地(底地)と甲の借地権への配分が合理的に行われていない場合には、上記のような問題の生ずる危険性があります。
《U借地権価額の算定方式》
1 法人税における借地権の価額
法人税においては、借地権の価額は、次に掲げる区分の応じそれぞれ次の金額とされます(法基本通達13-1-15)。
イ その支払っている地代の額が通常地代(通常支払うべき権利金を支払った場合にその土地の価額の上昇に応じて通常支払うべき地代をいう)に相当する金額となる時前にその譲渡が行われたとき・・・その譲渡の時におけるその土地の更地価額を基礎として次の算式により計算した金額。
土地の更地価額 × { 1 - 実際地代(※1) ÷ 法人税相当地代(※2) }
※1 譲渡の時において実際に授受されている年額地代の額をいう。
※2 次に掲げるいずれかの金額の6%相当額の年額地代をいう。
@ その土地の通常の取引価額
A その土地の近傍類似の公示価格等
B その土地の過去3年間の相続税評価額の平均額
ロ イ以外の場合・・・・その譲渡の時におけるその土地の更地価額を基礎として通常取引される価額
2 相続税・贈与税における借地権の価額
相続税・贈与税においては、借地権の価額は、次に掲げる区分に応じそれぞれ次の金額とされます。
イ 課税期間において資産税相当地代(※1)を授受している場合・・・・ゼロ
ロ 課税期間における実際地代(※2)が資産税相当地代に満たない場合・・・・課税時期におけるその土地の自用地としての相続税評価額を基礎として次の算式(以下「資産税通達算式」という)により計算した金額
自用地としての相続税評価額 × { 借地権割合 ×( 1- 《実際地代−通常地代(※3)》÷《資産税相当地代−通常地代(※3)》 ) }
※1 課税時期におけるその土地の自用地としての相続税評価額の6%相当額の年額地代をいう。
※2 課税時期におけるその土地について実際に授受されている年額地代をいう。
※3 その地域において通常の賃貸借契約に基づいて通常支払われる地代の年額をいう。ただし、相続税評価額による土地の底地価額の6%相当額を「通常地代」とすることができる。
3 借地権価額の算定方式の差異
実際地代が相当地代に満たない場合における借地権価額の算定方式は、法人税通達算式と資産税通達算式では、次のように異なっています。
【法人税通達算式における借地権価額】
土地の更地価額 × { 1 - (実際地代)÷(法人税相当地代) }
【資産税通達算式における借地権価額】
自用地としての相続税評価額 × { 借地権割合 × ( 1 - 《実際地代−通常地代》 ÷ 《資産税相当地代−通常地代》 ) }
イ 借地権価額の計算の基礎として、法人税通達が「土地の更地価額」を採用し、資産税通達が「自用地としての相続税評価額」を採用しているのは、法人税と相続税・贈与税における「土地の時価」の評価水準の差異に基づくものです。
また、相当地代の算定の基礎となる「土地の時価」が法人税通達と資産税通達で異なっているのも、法人税と相続税・贈与税における「土地の時価」の評価水準の差異に基づくものです。
ロ 借地権価額の算定要素として、法人税通達は相当地代(法人税相当地代)及び実際地代のみを採用しているのに対し、資産税通達は、相当地代(資産税相当地代)・実際地代のほかに、「借地権割合」及び「通常地代」を採用しています。
借地権価額の算定要素について、このような差異があるのは、結論からいえば、法人税通達の算式においては、通常地代は土地の底地価額の6%相当額であるということを前提としているのに対し、資産税通達においては、通常地代についてこのような前提を置いていないということです。
ハ 資産税通達における「通常地代」は、その地域において通常の賃貸借契約に基づいて通常支払われる地代の年額をいうものとされていますが、相続税評価額による土地の底地価額の6%相当額を「通常地代」とすることができます。
ニ 通常地代の授受が行われている場合における相続税・贈与税における借地権価額は、原則として、土地の自用地としての相続税評価額に、地域ごとに10%刻みで固定的に設定されている借地権割合(30%・40%・50%・60%・70%・80%・90%)を乗じて算定することを原則としているのに対し、法人税における借地権価額は、地域ごとに固定的な借地権割合を設けず、通常の取引価額(実勢価額)によることを原則としています。
一方、通常地代について、資産税通達算式は、その地域において通常の賃貸借契約に基づいて通常支払われる地代の年額(実勢地代)を原則とし、例外的に相続税評価額による土地の底地価額の6%相当額を「通常地代」とすることができることとしているのに対し、法人税通達算式は、形式的には土地の底地価額の6%相当額であるということを前提としています。
実際地代が相当地代に満たない場合における借地権価額の算定方式が法人税通達算式と資産税通達算式で異なっているのは、通常地代が授受されている場合における借地権価額および通常地代に対する法人税と相続税・贈与税の取り扱いが上記のように異なっているためです。
《V質問X土地の譲渡価額の配分》
質問のX土地の譲渡価額の借地権と底地への配分は、所得税に関するものです。
所得税においては、実際地代が相当地代に満たない場合における借地権価額の算定方式について資産税通達算式・法人税通達算式のような取り扱いは設けられていません。
所得税は、法人税と同様に所得を課税対象とするものであり、財産を課税対象とする相続税・贈与税とは異なりますので、X土地の譲渡価額の借地権と底地への配分は、法人税通達算式に準じて行うのが合理的であるといえます。
ご質問の事例は、譲渡により実現したX土地の譲渡価額の総額を借地権と底地の譲渡価額に配分するものですから、借地権の譲渡価額として借地権に配分する金額は、法人税通達算式を次のように修正して算定すべきでしょう。
X土地の譲渡価額総額(A) × { 1 - 《実際地代》 ÷ 《A×0.06》 }
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