贈与とは
贈与とは??
贈与とは、当事者の一方(贈与者)が自己の財産を無償で相手方(受贈者)に与える意思表示をし、相手方が受諾することによって成立する契約です。
本来の贈与は、恩恵・好意・謝意等の原因を動機としてなされるものですから法規範の対象外と考えられます。
しかし、民法では、贈与を契約としてとらえて法的な拘束力を与えています。
贈与は口頭でも書面でも可能か?
外国では、贈与の約束に公証人の作成した贈与証書や裁判所の証書作成等を要求していますが、日本の民法では贈与を「不要式の※諾成契約」としています。
つまり、贈与者が「あげますね」という意思表示を行い、受贈者が「受取ります」という意思表示をすれば、贈与契約は成立します。
※諾成契約(だくせいけいやく)・・・当事者双方の合意だけで成立する契約。
また、贈与契約は書面による必要はありませんが、書面によらなかったときは、給付を履行する前であれば、いつでも取り消しができます。
このように「書面によらない贈与はいつでも取り消しができる」としたことにより、書面による贈与のみに法的な拘束力が与えられました。
これは、贈与者の軽率な行為を戒め、贈与者の意思を明確にすることによって後日の紛争を避けるためです。
贈与財産の範囲
贈与財産に制限はなし
法律上、贈与の目的となる財産には制限はなく、贈与者の負担において受贈者の利益となる内容であればよいことになっています。
しかし、財産の実体が減少しない「使用貸借」や「無償の労務給付」等は、原則として贈与の目的にはなりません。
贈与には生前贈与、死因贈与、負担付贈与がある
贈与の種類
贈与の種類には、生前贈与と死因贈与と負担付き贈与があります。
贈与者が生存中に自分の財産を無償で他の人に与えることです。一般に「贈与」といえばこの生前贈与を指します。
生前に贈与する旨の契約をするが、贈与者が死亡することによって初めて効力が生じる贈与を「死因贈与」といいます。
死因贈与も、形としては契約や、生前贈与と同様に当事者間の合意によって成立します。
しかし、贈与者が死亡することにより効力が生じる贈与ですので、ほぼ、遺贈についての規定が適用されます。
遺贈とは、遺言で自分の財産の全部または一部を処分することをいいます。
死因贈与は、税務上の取扱についても遺贈の規定が適用され、贈与税ではなく、相続税が課税されます。
また、この場合、受贈者が配偶者及び一親等の血族(代襲相続人を含みます)である場合を除き、「相続税の2割加算」の適用があります。
負担付贈与とは、受贈者に一定の債務を負担させることを条件にした財産の贈与をいいます。
一般的な贈与は贈与者だけが、「財産を無償で与える」という義務を負う「※片務契約(へんむけいやく)」になりますが、負担付贈与は、受贈者に一定の条件を付けて贈与するため、受贈者もその条件を履行する義務を負う「※双務契約(そうむけいやく)」となります。
たとえば、「貸家を贈与するが、受贈者は家賃の何割かを贈与者の妻に与える」といったものです。
個人から負担付贈与を受けた場合は、贈与財産の価額(時価)から負担額を控除した価額に贈与税が課税されることになります。
※片務契約(へんむけいやく)・・・契約当事者の一方だけが債務を負担する契約。
※双務契約(そうむけいやく)・・・当事者双方が互いに対価的な意義を有する債務を負担する契約を双務契約といいます。
相続の節税はこつこつ贈与で
2次相続を見据えてこつこつと贈与する
自分が亡くなったときの相続税の節税のために子供や孫に財産を生前贈与する高齢者が増えています。
年間110万円の非課税枠を生かして少額ずつ贈与しながら、教育費や生活費をその都度、非課税で援助する方法を併用することで節税効果を高めることができます。
上手にこつこつ贈与するための税制をまず抑えておきましょう。
贈与税にはもらう1人当たり年110万円の基礎控除があり、これ以下の贈与なら税金はかかりません。
子供が3人なら、3年かけて1千万円近い財産を非課税で次世代に継承させることができます。こうした「暦年贈与(れきねんぞうよ)」によって財産が減れば将来の相続税負担は軽くなります。
相続対策の王道とされますが、知っておくべきポイントがあります。
贈与は贈る人だけではなく、もらう人が合意して初めて成り立つ契約行為です。
親がお金を子供名義の預金口座に振り込んでも、子供が把握していなければ、名ばかりの「名義預金」とみなされて、相続税の税務調査で課税されてしまいます。
そうならないように子供自身が預金通帳を持ち、口座を管理することが大切です。
贈与の契約は口頭でも成立しますが、税務調査できちんと説明できるように親子がそれぞれ署名し、捺印し、契約書を作っておくほうが確実です。毎年こつこつ贈与していくにしても契約は1ねんごとに交わしておきます。
毎年110万円ずつ10年間で贈与する、などまとめて1つの契約にしておくと、税務上、1,100万円を一括して贈与したとみなされて贈与税がかかってしまいます。
子供や孫の生活費や教育費として必要な金額をその都度、贈る場合はもともと贈与税はかかりません。
こうした「都度贈与」によってこつこつと資金を援助していけばその分、非課税で贈与できる枠が広がります。都度贈与ではお金を直接支払いに充てて使い切ることが原則です。
学費などは銀行口座に必要額ぴったりを入金して、そこから同額を学校指定の口座に振り込むべきです。
多額の財産があり、それを継がせる子供らが少ない人は、あえて年110万円超の暦年贈与をして贈与税を納めたほうが相続税を含めた税負担は小さい場合があります。
例えば、5千万円を10年かけて子供1人に贈与したときの実効税率を試算すると9.7%です。相続した場合に比べて税負担は大幅に軽くなります。
生前贈与の節税効果については、とりわけ2次相続の際に多く表れます。
夫婦がともに亡くなり、財産すべてが子供の世代に移るのが2次相続です。夫婦の片方が亡くなる1次相続では配偶者の税額軽減の制度により、少なくとも1億6,000万円までは非課税になりますが、2次相続時にこの制度は使えません。
上手に生前贈与をしていたかどうかで相続税額は大きく左右されます。
かなり高齢になってから暦年贈与を考える際は、「持ち戻し」という税制上のルールに気をつけなければなりません。
例えば、子供に贈与して3年以内に自分が亡くなると、相続税の計算上、その贈与はなかったものとみなされて、節税効果がなくなります。
そこで考えたいのが孫への贈与です。このルールの対象になるのは相続で財産をもらう人だけです。
法定相続人ではない孫は、遺言で特別に指定しない限り対象にならず、贈与の節税効果を生かすことができます。
ちなみに年300万円超を贈る場合、孫が20歳以上なら直系子孫への「特例贈与」の扱いとなり贈与税率は低くて済みます。
贈与と相続の実効税率の比較
(子供1人が法定相続人、5,000万円を継承する場合)
税額 | 実効税率 | |
---|---|---|
年500万円ずつ10年間で贈与 | 485万円 | 9.7% |
5,000万円を相続 | 800万円 | 16% |
生命保険の活用も忘れずに
贈与して大金を持たせると浪費してしまうのではないか?!と心配される人も少なくありません。そういう場合には、生命保険を活用してお金を引き出せないようにする方法があります。
子供に毎年110万円ずつ贈与し、それを保険料として子供が支払います。親が亡くなったとき死亡保険金を受け取る契約にしておきます。
この死亡保険金は「一時所得」となり所得税がかかりますが、保険料などを差し引いて計算しますので一般に実効税率は高くありません。
相続税で法定相続人1人につき500万円ある死亡保険金の非課税枠にも影響しません。
最近は暦年贈与の手続きを一部代行する金融商品やサービスも増えてきています。
三菱UFJ信託銀行の暦年贈与信託「おくるしあわせ」は年1回、金銭信託の残高の一部を贈与します。同行を通じて贈与する人とされる人が書面で意思確認を行います。
三井住友海上プライマリー生命保険の一時払い終身保険「やさしさ、つなぐ」は円やドルなどで運用しながら年1回「生存給付金」を贈与できます。
この2年余りで販売額は約8,500億円に達し、契約者の平均年齢は77歳です。同社では団塊世代が贈与を考える年齢に差し掛かりニーズはさらに高まると考えられています。
第一フロンティア生命保険が2018年9月に発売した競合商品「プレミアストーリー2」も2カ月で250億円を集めています。
野村証券の「暦年贈与らくらくパック」は、同社口座間で株式や投資信託を贈与できる無料サービスで、年間で約2万人が約600億円を贈与しています。
いずれ相続税がかかりそうな財産があるなら、まずは暦年贈与から相続税の節税対策を組み立ててみてはいかがでしょうか?
(日本経済新聞2018.12.1より)
暦年贈与に関連するキーワード
基礎控除 | 毎年1〜12月(暦年)の贈与はもらう人1人あたり110万円まで非課税 |
---|---|
持ち戻し | 相続発生前の3年間に相続人に贈与されていた財産は相続財産に加算される |
名義預金 |
贈与された人が通帳を持っていないなど、贈与契約が成立していないとみなされる預金
相続税の税務調査で、相続財産とみなされて課税される |
都度贈与 | 生活費や教育費などに充てるのに必要な額をその都度もらう場合、その贈与は非課税 |